≪episode 5: 火花が飛び出す仕組み≫
こんにちは。井上智博です。今回は,線香花火の火花が飛び出す仕組みを紹介したいと思います。
紙縒りタイプの線香花火に火をつけると,黒色火薬が燃えて,やがて橙色の火の玉(火球)ができます。よく見ると,火球が小刻みにジジジと震えていることがわかります。突然,火球から火花が勢いよく飛び出します。
この時の火球を高速度カメラで撮影しました。動画を見ると,火球の中にガスがたまって,徐々に大きくなります。限界まで膨らむと,火球が割れて穴が開きます。するとシャボン玉が破裂するのと同じように,空いた穴が引き戻されて,火球が縮むことがわかります。同時に,火球から液柱が立ち上がり,先端が分裂して,液滴が飛び出します。この液滴が,私たちには火花に見えます。
しばらく待つと,今度は火球の左側から火花が飛び出します。火球に穴が開いた瞬間に,ガスがたまって空洞になった火球の内部を観察できます。線香花火の前半では,火球が一つの泡のように振る舞い,泡が弾けて火花が飛び出します。
Movie link: https://youtu.be/i2nU8pVLlSs
線香花火の中盤に差し掛かると,火球が紙縒りにしがみついて,紡錘型になります。動画を見ると,表面には,たくさんの小さな泡がブクブクとできているのを確認できます。まるで火山のマグマのようです。そして,泡が弾けると,前半同様に液柱が伸びて,液滴が飛び出します。泡がたくさんできる結果,火球を取り囲むように火花が多く飛び出します。
Movie link: https://youtu.be/ZraTQ6wFBoM
線香花火では,泡が弾けて火花が飛び出すことがわかりました。私たちはよく似た現象を知っています。炭酸水をグラスに注いだ動画を見ると,水面に出てきた泡が破裂して,小さな液滴が飛び上がります。これは,線香花火の火花が飛び出す仕組みと全く同じです。
Movie link: https://youtu.be/l-GTia9RY8s
以前は,火球の中にたまったガスが,表面の一部を吹き飛ばすことで火花が飛び出すという説もありました。もしこの説が正しければ,最も勢いよくガスが噴出するとき,つまり,泡が割れた瞬間に火花が飛び出すはずです。しかし,動画からわかるように,泡が割れて縮んでから火花が飛び出します。ですから,内部のガスに吹き飛ばされて火花が飛ぶわけではありません。
実際には,泡が割れてできた穴の縁に働く表面張力によって,穴が広がります。その結果,火球本体へと引き戻す流れが一か所に集中するため,液柱が立ち上がり,その先端が分裂して火花になっています。泡の破裂と,その結果として生じる表面張力に駆動された流れが重要だったわけです。
===============================
『線香花火の科学』目次
■ episode 1: はじめに
■ episode 2: 研究の歴史(第1回)
■ episode 3: 研究の歴史(第2回)
■ episode 4: 高速度可視化概要
■ episode 5: 火花が飛び出す仕組み
□ episode 6: 火花が枝分かれする仕組み
□ episode 7: 儚い色味の仕組み
□ episode 8: 線香花火の数式(第1回)
□ episode 9: 線香花火の数式(第2回)
□ episode10: おわりに
===============================