≪episode 4: 高速度可視化の概要≫
こんにちは。井上智博です。
最近では,スマートフォンを使ってお手軽なスローモーション撮影ができます。動きがある現象をスローモーション撮影すると,見慣れた現象でも新鮮に感じることがあります。明確な定義はありませんが,毎秒千コマの撮影ができるカメラを,高速度カメラと呼びます。
手始めに,高速度カメラ(Photron SA-X2)を使って,ワインボトルが割れる様子を,毎秒2万コマで撮影しました。高速度カメラを使うと,1コマ当たりの光量が極端に減るため,照明の当て方に工夫が必要です。動画を見ると,ワインボトルが鉄板の上に落下した衝撃で,多数の破片に砕けています。目にも止まらない亀裂の進展の様子がよくわかります。破片はたくさんできますが,一つ一つの破片を追いかけると,1回かせいぜい2回しか分裂していませんね。物が壊れるときに,たくさんの破片ができますが,実は一つ一つの破片は,何度も分裂することはありません。
Movie link: https://youtu.be/Ku45GrHiuII
次に,直径1ミリの水滴を,左から右に流れる気流へと落とした場合はどうでしょう。こちらも水滴が気流にさらされると大きく変形し,たくさんの小さな液滴へと分裂しています。そして,一度液滴になると,そのまま飛んでいき,分裂を繰り返すことはありません。
Movie link: https://youtu.be/FHSgk9hlR6E
このように,外からの力を受けて瞬時に変形・分裂する現象では,固体や液体を問わず,個々の破片は1回程度しか分裂しないのが普通です。対して,長い時間をかけて成長するような木々や河川の流れは,何度も枝分かれすることを,我々は良く知っています。
では,線香花火の火花はどうでしょう。火花は何度か枝分かれしているように思います。毎秒10万コマで白黒撮影した動画を見ると,火花が液滴として飛んでいることが分かります。そして,急に弾けたかと思うと,そのあと何度も弾けています。我々の目には,液滴の軌跡が火花に見えて,液滴の分裂が火花の枝分かれに映ります。線香花火の火花の弾け方は,液滴が何度も連鎖的に分裂する点で,とても珍しく面白い現象です。
Movie link: https://youtu.be/1vNpSwPjGFA
高速度カメラを使うことで,線香花火の新鮮な姿が見える予感がします。次回は,火花が飛び出す瞬間に焦点を当てて, その仕組みを説明します。
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『線香花火の科学』目次
■ episode 1: はじめに
■ episode 2: 研究の歴史(第1回)
■ episode 3: 研究の歴史(第2回)
■ episode 4: 高速度可視化概要
□ episode 5: 火花が飛び出す仕組み
□ episode 6: 火花が枝分かれする仕組み
□ episode 7: 儚い色味の仕組み
□ episode 8: 線香花火の数式(第1回)
□ episode 9: 線香花火の数式(第2回)
□ episode10: おわりに
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